◆「モンブラン」と「かぼちゃのプリン」◆


「モンブラン」という言葉を聞いて、大部分の人は何を思い起こすだろう。万年筆? それとも ケーキ? この言葉を知ったのは、やはりかなり遅かったような気がする。大学に入学してからだったかも知れない。最初に遭遇したのは、やはりケーキだったろうか? 洋菓子店などのショーケースに並べられた、その姿はとても新鮮だったように記憶する。食する機会は極端に少なかったと思うが、その初体験の味はとても格別なものだったと思い出す。ところが、大学2年生頃だったろうか、家庭教師アルバイト宅の休憩タイムには、毎回毎回この「モンブラン」洋菓子が「おやつ」として出てきたものであるから、この風変わりな格好した洋菓子がその時からとても身近な存在に一変した。おそらく、この時期の1年間に食した、「モンブラン」の数は100個以上だった計算になる。ひょっとしてあの時期、モンブランの食事実績、年間ナンバーワンだったかもしれない。


シャモニ1

「モン・ブラン」は、ご承知の通り、フランス語。直訳すれば、「白い・山」。フランスとイタリアの国境に位置する、西ヨーロッパで最も高い山の名称である。標高4810mである。この山の「モンブラン」も、ある時期に、急に身近な山になった。   


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何回かのスイス、ジュネーブへ出張で行ったことがあるが、2週間の現地滞在期間の真ん中は土日の休日である。この土日の休日を利用して、周辺国へ足を伸ばし、観光などして愉しむ事ができた。この中でもっとも記憶に残っているのはスイスの山めぐりである。日本国内では山へ行くとなると、ちょっとしたハイキングでもそれなりの装備と服装が必要であるがスイスの山巡りは違っていた。普段の服装のまま行けるのである。何の準備も要らない。思いついたときに「ちょい」と行ける。登山電車やケーブルカーなどが発達しているからであるが、富士山よりも高い4000m級の山々にこんなに気軽に行ける国はスイス以外にはあるまい。


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最初にこのアルプスの山に登ったのは、レマン湖の南、フランスとイタリアの国境にあるモンブランである。「ケーキ」で日本人には馴染みの深いこの山は、天候の良い日にはジュネーブ市街からその頂を見ることができた。あまり恰好の良い山の形とは言えない。頂上がまるっこい形をしているが、西ヨーロッパ最高峰のこの山がレマン湖の水面に「逆さモンブラン」として映し出す姿は確かに美しい。
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ジュネーブからその麓の街である、シャモニ行きの定期バスが毎日出ている。およそ1時間ほどバスに揺られれば簡単にその麓の町シャモニに到着することができる。4000m級の山は、麓が晴れていても頂上は曇っている場合がある。それでは行く甲斐がない。ジュネーブ滞在中にTVで山の天気予報を見ながら「今日は快晴だ」と確認してから出発する。2週間滞在中の土日休暇、絶好の日和であることを確認してからシャモニまでのバスに乗った。


麓のシャモニに到着するとそこからからロープウェイで15分で、モンブランの頂が真近に見える、「エギーユ・デュ・ミディ峰」までしか行けないのだが急峻なロープウェーに乗ると一挙に3842mの高度まで自分を運んでくれた。ロープウェイ終点のその峰はあまり広くないが、モンブランの頂を近くに望むことができる。初めて近くにみるアルプスの最高峰であったので感激したことを鮮明に記憶している。麓のシャモニ街でアルプス山麓ののんびりした牧場などを散策することもできた。


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モンブランから転じて、「ル・ブラン」のお話。もう20数年前の話であるが、 ルブランのお店は、新宿伊勢丹デパート前の大通りを挟んだ向かい側の少し路地を入ったところにあった。このお店、ケーキが美味しいという。いつも入り口ではだれかが順番待ちで並んでいた。メニューをみるとデザートセットと、ケーキセットが人気らしい。デザートセットには、かぼちゃのプリン、パンナコッタ、ベイグドアップルなどがあり、ケーキセットには、ショートケーキ、ボワールキャラメル、オレンジのブリュレなどがあった。どれも写真を見ると美味しそうである。この中で「かぼちゃのプリン」が一番のお薦め。


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その昔、このルブランでかぼちゃのプリンを頬張ったことがある。味は、そんなに甘くなくていい味をしていた。業務で新宿へ出ることがあり、すこし時間を持て余したので思い切って何年ぶりかのルブランに入ってみた。マスターに、コーヒーと「かぼちゃのプリン」のデザートセットを注文した。味は、あの当時、頬張ったときの懐かしい味のままだったが、少しほろ苦い味がした。
(平成15年5月18日記、平成28年6月5日編集)


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